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東京地方裁判所 平成9年(ワ)15877号 判決 1998年7月14日

原告 株式会社東京相和銀行

右代表者代表取締役 A

右訴訟代理人弁護士 木村濱雄

同 木村康則

同 磯谷文明

同 本橋一樹

右訴訟復代理人弁護士 森裕子

補助参加人 Z

右訴訟代理人弁護士 岩本公雄

同 若林実

被告 Y

右訴訟代理人弁護士 黒岩哲彦

主文

一  被告は原告に対し、金四三三万〇一一〇円及びこれに対する平成九年八月二六日から支払済みまで年五パーセントの割合による金員を支払え。

二  訴訟費用は被告の負担とする。

三  この判決は仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

主文同旨

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

第二当事者の主張

一  請求の原因

1  平成三年五月二日ころ、B(以下「B」という)は、原告との間で、Z(以下「Z」という)名義で金三八二万円の定期預金契約(一年満期・自動継続型。以下「本件定期預金」という)を締結した。

2  本件定期預金を受け入れた際、原告は、コンピューターにZの口座番号を入力すべきところ、誤ってC(以下「C」という)の口座番号を入力したため、コンピューター上においては、C名義の定期預金が存在するかのごとき外観が作られた。

3  被告は、Cの妻であるが、Cは平成三年四月一日から一〇日までの間に死亡した。

4  平成四年三月初めころ、原告はC方に、本件定期預金の満期が同年五月二日ころ到来する旨の通知をした。

5  平成四年七月一〇日ころ、被告は原告に対し、C名義の本件定期預金を相続したが、定期預金証書及び印鑑が見当たらないので、本件定期預金を被告名義に変更した上、届出印鑑も変更し定期預金証書を再発行してほしい旨の申し入れを行ったので、原告は被告名義の定期預金証書を再発行して被告に交付した。

6  平成七年一一月六日ころ、被告は本件定期預金の解約を申し入れ、払い戻しを請求したので、原告は元利合計金四三三万〇一一〇円を支払った。

7  前項において被告が支払いを受けた本件定期預金は、Cのものではなく、被告が相続によって取得するものではないから、被告は何ら法律上の原因なくして前項の金四三三万〇一一〇円を利得したのであり、不当利得として原告に返還すべきものである。

8  よって、原告は被告に対し、不当利得返還請求権に基づき、金四三三万〇一一〇円及びこれに対する訴状送達の日の翌日から支払済みまで民法所定の年五パーセントの割合による遅延損害金の支払いを求める。

二  請求原因に対する被告の認否及び主張

1  請求原因1は否認する。

2  同2のうち、コンピューター上においては、C名義の定期預金が存在するかのごとき外観があることは認め、その余は否認する。

3  同3ないし6は認める。

4  同7は争う。

5  Cの遺産分割について、平成六年一二月六日、相続人である被告、D、B、Z、E間で遺産分割協議が成立し、その四条で、預金については「各人が通帳等を保管し又は払戻を受けたものは、その者が取得する」とされた。被告は、右遺産分割協議に基づき、本件定期預金の払戻を受けたものである。

三  請求原因に対する補助参加人の認否

1  請求原因1は認める。

2  同2は不知。

3  同3は認める。

4  同4、5は不知。

5  同6、7は認める。

理由

一  前示争いのない事実、甲一ないし一〇、三〇、三一、丙一ないし三、証人B、証人Fの証言並びに弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められる。

1  Zは、昭和五九年九月、その所有する土地を代金九六五七万円で売却し(丙三)、多額の資金を有していたが、これを多数の預金に分割しており、その預金管理を、末弟であるBに任せていた。そこで、Bは、昭和六一年八月二七日、Zの右資金を使用して、原告梅島支店において金一五五万円の定期預金預け入れをしたが、この際、預金者名義をCとした(甲一、二)。ただし、この定期預金入金票(甲一)上の預金者の住所は資金の権利者であるZの住所(甲七)が記載された。また、同日、Bは、同様にZの資金で金八二万円の定期預金を預入れたが、この預金者名義もCとした(甲三、四)。この際にも、定期預金入金票(甲三)上の預金者の住所は資金の権利者であるZの住所が記載された。さらに、Bは、同月二八日、やはりZの資金を使用して、同様に金九八万円の定期預金を預け入れたが(甲五、六)、この預金者名義もCとした。この際にも、定期預金入金票(甲五)上の預金者の住所は資金の権利者であるZの住所が記載された。平成二年九月一七日ころ、Bは、これら三口の定期預金を解約したが、その際、各預金証書(甲二、四、六)の払戻金受領欄には、BがCの氏名を記載し、Zから預かっていた印鑑を押捺した。

2  平成二年九月一七日ころ、Bは、前示解約した三口の定期預金元利合計金三七六万六五二九円のうち、金三七六万円を定期預金に預入れたが、この際にも、預金者名義はCとした(甲八、九)。ただし、この際にも、定期預金入金票(甲八)上の預金者の住所は資金の権利者であるZの住所を記載した。平成三年五月二日、Bは右定期預金を解約したが、その際、預金証書(甲九)の払戻金受領欄には、BがCの氏名を記載し、Zから預かっていた印鑑を押捺した。

3  Bは、平成三年五月二日、前示のとおり、元金三七六万円の定期預金を解約したが、その元利合計金三八二万一四六二円のうち金三八二万円を定期預金にしようと考え、同日、今度は、Z名義で(住所もZの住所で)定期預金入金票(甲一〇)を作成し、これを原告の窓口担当者に交付した。右入金票を受領した原告のオペレーターは、本来、この入金票に基づいて、Zの名前とZ名義の口座番号を入力しなければならないところ、実際には、従前の名義人であるCの名前とC名義の口座番号を入力し、他方、その際に発行した預金証書(丙二)にはZの氏名を記載したため、預金証書上はZの、コンピューターの記録上はCの本件定期預金が存在する形となった。

4  その後、原告では定期預金の満期前に預金者に満期の通知をすることとしていたので、本件定期預金の満期前の平成四年三月初めころ、原告からコンピューターの記録上の預金者であるC宛に、本件定期預金が満期になる旨の通知がされ、これを受けた被告は、Cが前年に死亡していたが、その遺品中に本件定期預金証書が見当たらず、また、本件定期預金の届出印も見当たらなかったことから、同年七月一〇日ころ、原告梅島支店に赴き、本件定期預金の預金者名義を被告に書き替えることと定期預金証書を再発行することを依頼し、原告はこれに応じて、被告名義の定期預金証書(甲三一)を再発行した。その後、平成七年一一月六日ころ、被告はこの再発行された定期預金証書を使って本件定期預金の解約を申出、原告はこれに応じて、元利合計四三三万〇一一〇円を被告に払い渡した。ところが、平成九年二月二六日、BがZ名義の定期預金証書(丙二)を持参して本件定期預金の払戻を請求したことから、原告は、調査の結果、前示誤りを発見するに至った。

二  以上の事実によれば、本件定期預金の原資となった前示各定期預金の出捐者はZであり、したがって、本件定期預金の預金者はZであるところ、平成七年一一月六日ころ、原告が被告に対して本件定期預金の払戻として支払った金四三三万〇一一〇円は、原告従業員が本件定期預金の名義人をコンピューターに入力した際、Zと入力すべきところをCと誤って入力したため、C名義の定期預金が存在するかのような外観が作られたことにより支払われたものであると認められるのであるから、被告がこの預金を取得する理由がないことは明らかである。

三  なお、被告は、遺産分割により本件定期預金を相続したと主張するが、遺産分割の対象は、被相続人の財産に属した権利義務であるところ、前述のとおり、本件定期預金の預金者はZであってCではないのであるから、被告の主張を認めることはできない。

四  以上によれば、本訴請求は理由があるのでこれを認容し、訴訟費用の負担について民訴法六一条、仮執行宣言について同法二五九条を各適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 佃浩一)

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